クルマで遠足

クルマに乗って、出かける気軽な旅の記録。

Vol.012

タイムズから行く、美と食の旅~国立新美術館

東京は観光地だ。ちょっとしたスポットに行けば、団体観光客を良く見るし、はとバスと擦れ違うことも多い。意外と東京にいながらにして、東京の観光スポットを知らないことに気づく。そんな中、気になっていたのが国立新美術館だ。昨年オープンして以来、行こう行こうと思っていたのに、なかなか足を運べないでいた。ちょっと調べてみると館併設の駐車場はないものの、歩いて1分もかからないところにタイムズもある。冬のちょっとしたドライブには最適なことがわかった。

写真では知っていたが、まず驚かされたのがその外観。無数のガラスが波型のゆるやかなカーブの壁面に突き刺さるように配置されている。設計はあの故黒川紀章氏。今となっては選挙でのパフォーマンスばかりが思い出されるが、こんな素晴らしい建築を残していたなんて。美術館であるのなら、まず自らが美術品でなければならない。そんな強いメッセージを感じた。

現在展示中の企画展の目玉は「没後50年 横山大観―新たなる伝説へ」展だ(主催:国立新美術館、朝日新聞社、没後50年横山大観展組織委員会。会期:2008年3月3日まで)。
横山大観(1868年/明治元年~1958年/昭和33年)は、近代日本画の巨匠と呼ばれた画家だ。その足跡を今回の展示では、一挙に辿ることができる。

何か日本画というと、ちょっと小難しそうな気がするが、そんなことはまったくなかった。それが素直な感想だ。全長40メートルにも及ぶ長い巻物「生々流転」は、まるで映画を見ているかのようだ。水の一生が描かれているのだが、その流れとともに季節、時代、自然、人の暮らしを感じる。最後に龍が現れるものの、その威容さを誇るわけでもない、自然と雲の間に消えていくだけだ。空気、音、香りまでしっかりと感じられる。数百年前の日本の風景を俯瞰しているかのような錯覚さえ覚えた。

一転して鮮やかな色使いの「秋色」も興味深い。槇(スギの古名)と紅葉しつつある蔦。そして、その実を口にしている二頭の牡鹿。東洋の何気ない秋の風景が、とても印象的に描かれている。この作品は尾形光琳の影響を強く受けているとされ、その光琳の作品「槇楓図屏風」が「秋色」の横に展示されているので、両方の作品を見較べてみると、素人の私でも「なるほど」と思えるポイントがあった。

展示の最後を飾るのが横山大観晩年の作品「或る日の太平洋」だ。荒波から今にも雨を降らせそうな黒い雲。その合間に顔を覗かせる龍。そして、そんな下界を見下ろすかのような富士山が連続して、ダイナミックに描かれている。この作品が完成されるまでに17もの習作があったという。84歳にして、それだけ悩み、迷う、そして前に進もうとした大観の姿勢に心打たれた。

久しぶりに濃密な時間を過ごし、放心状態にあった心を癒すために次は3階の「ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ」で、ランチをとる事にした。1階から突き上がる逆円錐形の柱の上に広がる、贅沢な食の空間だ。ミシュランの三ツ星を43年間獲得し続けるシェフの日本出店第一号店がここだ。

頼んだのは企画展に合わせた「横山大観展スペシャルメニュー」(3月3日まで)。
前菜は「軽く燻製をかけた鶏胸肉のサラダ仕立て 粒マスタードのクリームと共に」。前菜らしく、味はソフトで上品。やわらかな鶏胸肉に、アーモンドの香ばしさ、トマトの酸味、マスタードが程よくからまり、多彩な味を楽しめる。メインは「たらのロースト サフランのヴルーテ 季節野菜添え」。こちらは、多少濃厚でほのかな甘みを感じるヴルーテ(ソース)が、タラをやさしく美しく包み込み、他ではなかなか味わえそうもない微妙なハーモニーを奏でる。いかにもフランス料理らしい味わいだ。そして、最後の「リンゴのタタン仕立て ヴァニラのアイスクリーム添え」も素晴らしかった。カラメルにほろ苦さと融合したリンゴは、わずかにシャキッとした食感を残し、まだ焼き上がりの温かさを保っている。そしてその対極にある濃厚で冷たいヴァニラアイスも、心地良い味だった。大胆でありながら繊細、そんな横山大観の絵と共通点を最も感じるのが、このデザートだった。

外へ出ると冬の日差しは、ゆらりと傾きつつあった。そして、国立新美術館も、ほのかにオレンジ色に染まっている。思い返すと、本当に贅沢な一日だった。きっと、忘れることはないだろう。


国立新美術館近くのタイムズ


タイムズ六本木第36
http://times-info.net/map/parkdetails/BUK0018327.html

タイムズ六本木第3
http://times-info.net/map/parkdetails/BUK0000087.html

今回の目玉!

「没後50年 横山大観―新たなる伝説へ」展

◆会期 2008年1月23日(水)~3月3日(月)
◆開館時間 午前10時~午後6時、毎週金曜日は午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)
◆休館日 毎週火曜日
◆観覧料 当日:一般1,400円
◆お問合せ ハローダイヤル 03-5777-8600

展覧会公式サイト http://www.asahi.com/taikan/
美術館公式サイト http://www.nact.jp/

※この記事は2008年2月12日現在の情報です

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