クルマで遠足

「ねぇ、買っただけで満足せんといてよ」
私の夫は新しいもの好きで、いつもそうなんです。私に何の断りもなく、結構な値段のものを買ってきて。買った直後はいじっていても、使いこなす前に飽きてしまい、また次のものを買う。その繰り返し。今度買ってきたのは、パナソニックの旅ナビ。今日は休みだし、出かけなきゃもったいない！それに使わないのは、もっともったいない。
「分かった、分かった。それやったら京都行こか」
「せやけど、この時期って京都は大渋滞やで」
「パーク＆ライドでええやん。駅まではクルマで行って、そこからは電車と歩き。旅ナビは歩くためのナビやで」

10分後には、私たちは旅ナビだけ持ってクルマに乗り込み、30分後には（※）タイムズ六地蔵住宅博にクルマをとめていました。そして京都市営地下鉄の車内では、旅ナビにインストールされているガイドブックMAPPLEガイドの京都版を見ながら、今日のルート決めをしていました。
「降りるのは、東山駅でええやろ」
「せやね。それやったら、適当に祇園の方まで歩こか」

東山駅前で旅ナビを確認して、白川沿いを南へ向かって歩きます。
「今までは、寒いばかりやったから、外に出てもつらかったけど、やっぱり春やな」
「せやね」
白川には趣あふれる石造りの橋がかかり、川沿いには柳の新芽が輝やいています。久しぶりに二人で歩く京都。デート気分です。
心地よい気分のまま30分ほど歩くと、祇園へとたどり着きました。このルートで祇園まで行くのは、今日が初めてですが、旅ナビのおかげで迷うこともありませんでした。
「ちょっとあんた、見過ぎやで」
「ばれた？」
「そんな見たら、舞妓さんかて気恥ずかしいやろ」
「お前、声がでかい」
舞妓さんが手元に口をあてて、ほほ笑んでいます。まぁ、あれだけキレイなら見とれるのも仕方ないか。

「写真撮れへん？携帯だしてよ」
「アホやな。この旅ナビはカメラも付いてるんやで」
カシャ！
「さらに、この旅ナビの賢いところは、撮った場所が地図上に残るんや。凄いやろ。祇園のあたりって、ごちゃごちゃしてわかりにくいから、これは便利でおもろい」
「えぇ記念になりそうね」

八坂神社の朱色の楼門は、美しく目を奪われます。祇園の街に相応しい、女性らしさが感じられる艶やかさです。日本三大祭りの一つ、祇園祭りもこの八坂神社の祭礼です。
硬貨の乾いた音が賽銭箱から聞こえ、2人で手を合わせました。しかし、彼の方のお参りがなかなか終わりません。
「何お願いしたの？」
「内緒、内緒、人に言うたらあかんやろ」
「怪しい。怪しい。人に言えへんことなんや」
「お前といつまでも、仲良くできますようにってお願いしたんや」
「ほんま？まぁ、ええわ。そういうことにしといたげる」

そういえば、友達の誕生日プレゼントを買うのを忘れていました。
「ちょっと旅ナビ貸して。“近くの施設”をタッチして“買う”、それから京都ぽいものだと“工・民芸品”かな。あ、この花見小路にある藍香房がよさそ。それで“ここに行く”をタッチして」
う～ん。これは便利です。あとは、旅ナビの教えにそって歩くだけ。
「これ、かわいいな。ちょうどええわ」
お店の方のオススメで藍染めのスカーフを買いました。京都伝統の藍染め、深い色合いが何とも上品で、長い間使えそうです。これなら、きっと友達も喜びそう。

「知恩院さん、ほんま立派やなぁ」
「感心するのは、ええけど旅ナビ使ってや」
「わかった。わかった。カメラにして、知恩院さんの三門を“何これカメラ”で撮れば…。旅ナビによりますと、法然上人が浄土宗をはじめて布教し、また入滅した地に建つ浄土宗の総本山。2年の歳月をかけて建立した三門は、知恵・慈悲・方便を表すわが国最大の三門…やって」
「わが国最大。そうなんや。ほんま大きいもんね。あっそうや。ここから街並みスコープもやってみよ」

そう、街並みスコープはいわゆる拡張現実という機能です。カメラを向けると、画面上にランドマークが表示される、とっても面白い機能なんです。
「おっ、さっきの八坂神社も見える！逆を向くと銀閣寺か。さらに、こっちのベッピンさんは…」
「何アホ言ってるの！」
「まだもう少し時間があるから、南禅寺も行こうか」
「そうね。今、旅ナビのワンセグで天気を確認したら、まだ天気は持ちそうやわ」
南禅寺の長い参道を抜け、立派な三門をくぐると心が引き締まります。本堂で手を合わせ、私たちは境内にある水路閣へ向かいました。
「三門も本堂も完全に和風だったけど、打って変わってやな」
「旅ナビによると、古代ローマ水道橋を参考にして1888年に造られたそうよ。橋の上を琵琶湖の水が流れているみたい」
「100年以上前に出来たんか。古いけど、変わらない美しさと強さやな。うーん誰かと似てるような」
「あの～。私まだまだ若いやんけど」
「いや、そうあってもらいたいということ」
「それやったら、許しといたげる。あと、旅ナビ買ったことは、褒めといてあげる」
「おおきに」