クルマで遠足

クルマに乗って、出かける気軽な旅の記録。

Vol.059

冬の熊本 ぶらり旅

冬の熊本ぶらり旅

私は雨女じゃないって言いたいけど

「君が取材に行くと、大抵雨だよね。雨女なんじゃない?」。今までは、何とかして反論していたけど、今度ばかりは観念しました。飛行機を降りた頃はポツリ、ポツリだったのに、市内に入ると音を立てて降りだし、空港で借りたマツダレンタカーのアクセラのワイパーもせわしなく左右に動いています。
確かに、天気予報で雨になるのは聞いていたけど、意味もなく自分の意地を通したくて、折りたたみ傘も鞄に入れていないのです。車外に出て私がこの雨をしのぐ唯一の手段は、モッズコートのフードだけ。タイムズ上通にアクセラをとめて車外に出ると、上通のアーケードが私を雨から守ってくれました。

九州一とも言われる上通のアーケード街

上通はパリのオルセー美術館を模して造られた、熊本はもとより九州一とも言われる長い長いアーケード街。その距離は何と600メートル。ファッション、食事、ショッピングを存分に楽しめる熊本のメインストリートです。雨の平日ということもあり、私が歩いた時はそんなに人通りが多くなかったのですが、地方でよく聞かれるシャッター通の商店街とは、まさしく対極にあります。また、通りを歩く人がオシャレなのにも、目を引かれます。私の印象では女性も男性も、ブランド品などにはこだわらず、オーソドックスなスタイルにちょっとアクセントをプラスした個性的なオシャレさんが多いように思えました。
上通のお次は歓楽街の下通、そしてオシャレな新市街を抜けて、雨に煙った熊本城へ向かいました。

築城400年を越す、熊本城

1607年に築城の名人と言われた加藤清正によって建てられたのが、この熊本城です。天守閣は黒い壁と瓦の間にアクセントのように白い壁が髭のように伸びています。まさに威風堂々。戦後になって、再建築されたものですが、往時の雰囲気をそのままとどめているように思えます。また、この熊本城で天守閣とともに有名なのが石垣です。扇のような美しい曲線を描いた石垣は、上に行くほど垂直に近くなり、攻め込んだ武者を撃退できるようになっています。
天守閣には、もちろん上ることができます。中はコンクリートの柱がむき出しになっている安全重視型とも言える空間ですが、加藤家の後に城主となった細川家由来の品々や、西南戦争の武器などが展示され、私は興味津々で天守閣最上階へ上がりました。東京ドーム21個分もある城郭と市内を一望できます。まさしくお殿様気分です(雨が降ってなかったらなお良しですが)!天守閣を降りた後は、2007年に築城400年を記念して復元された本丸御殿へ。こちらは、質実剛健な天守閣と違い、夢のような豪華絢爛さ。中でも目を見張るのは昭君之間(しょうくんのま)。壁も天井も金色に輝く、絵画に包まれた藩主の間です。竜宮城のような空間に、思わず目がくらむほどでした。

霧と雪の草千里

夜に明日の天気予報を確認すると、とりあえずは「曇りのち晴れ」という予報。ほっと胸をなでおろし、焼肉をパクつきました。
翌朝、窓を開けると、一面の青空ではなく、曇り。雨は降りそうにないものの、阿蘇山は雲の中のようです。山の天気は変わりやすいから、じきに晴れるだろうと楽観してアクセラとともに、いざ山頂近くの有名な草千里へと向かいました。霧が濃くなり気温も下がってきました。さらに、昨日降った雨はこちらでは雪だったのでしょうか。除雪された雪の塊が道の両脇を固めています。スピードを落とし、途中からはライトも点灯して、ゆっくりとクネクネとした道を上がっていきました。ようやく着いた草千里の駐車場は、とまっているクルマも本当にまばら。茶色く枯れた草原に雪が残っています。霧のおかげでガイドブックのような開放感は、全くありません。これでは納得がいかず、さらに霧が濃くなる中、火口見学もチャレンジしようと思いヤケ気味にアクセラを走らせたのですが、「濃霧のため通行止め」の表示。ついてないと思い、もう一度ガイドブックを開き、今度は冬期には凍りつく神秘的な滝、古閑(こが)の滝へ向かいました。

冬の阿蘇が育んだ氷の芸術

こちらはばっちりです。生まれて初めて凍った滝を見ました。上から下までがっちり凍っています。気温も0度前後だからか、一滴たりとも水はなく、すべて氷。高さは80メートル。ビルでいうと20階くらいでしょうか。連続した真っ白な氷が、こちらへ向かってくるよう。そして時が止まったかのようです。冬の阿蘇が作り出す、氷の芸術と言っても過言ではない景色です。ただし、近寄り過ぎるのは危険なようで「落氷注意」との珍しい看板も。これだけでも阿蘇に来た甲斐がありました。
お次は、清らか水がこんこんと湧きあがる白川水源で、思いのほか温か(冬でも水温は14度もあるそうです)な水で喉を潤し、霜降りの馬刺しで胃袋も満たしました。
店を出ると、空も晴れ上がっていました。もう一度阿蘇山頂へ、再チャレンジです。

天気回復!私の心も回復!草千里の本当の姿に感動!

同じ道を走っているのに、まったく景色が違います。中腹からは、さっきは見えなかった街を見渡せるし、山全体が草原に包まれているのも、良く分かります。胸躍らせて、再び草千里にたどり着くと、その興奮も最高潮に達しました。向こうに2つの池、そして高さはさほどでもないですが、駒立(こまだて)というシルエットの美しい山がこちら向きに、雪のパウダーをまとって向き合ってくれています。私は引き寄せられるように、一人草千里を歩きました。駐車場よりも風は強く、地面もぬかるんでいます。そして、馬の糞にも気をつけなければなりません。でも引き寄せられていきます。まだ、氷をはった池、日陰にぽつんと立つ小さな木、荒涼とした風景です。体感的にも本当に寒いのですが、なぜか自然の温もりを全身で感じました。この美しい風景に溶け込むことができた気がしました。

高濃度火山ガスでゲホゲホッ

その心地よさを持続したまま、さっきは濃霧で上がれなかった山頂の火口付近まで向かいました。しかし、クルマを降りたとたんにセキが止まりません。臭いはさほどでもないのですが、異常に強い炭酸の中に顔をつけたような感じで、息をするたびに鼻と喉が刺激されるのです。それでも我慢して歩くと、今度はけたたしましいサイレン音が。「至急避難してください」と放送がかかり、あきらめて戻りました。ちょっと残念ですが、まぁいいです。
雨だけでなく、さらに霧と高濃度火山ガスまで、体験できたのだから。雨女のレッテルがどうなるのか分かりませんが、今日一日だけでも阿蘇女になれたことが、心から嬉しく思えました。


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※この記事は2011年3月09日現在の情報です

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