クルマで遠足

クルマに乗って、出かける気軽な旅の記録。

Vol.038

タイムズから行く、吉祥寺散歩

タイムズから行く、吉祥寺散歩

不思議と縁のある街ってありませんか? 私にとっては「吉祥寺」がそう。住んだことはないのに学生時代から何度なく足を運びました。行くたびに新しい発見がある。そんな魅力的な街です。

吉祥寺があるのは、都心から西へ20kmほどの武蔵野市。三鷹の森ジブリ美術館がある三鷹市の隣町です。縦横無尽に広がる商店街。伊勢丹、丸井、東急といった大型の商業施設、そして動物園まである水と緑の井の頭公園。ショッピングにも散歩にもぴったりの街です。

吉祥寺とは、この何年間か、なぜか縁遠くなっていました。だけど、吉祥寺は私の大好きな街。その思いは変わりませんでした。そんな時に舞い込んできた吉祥寺の取材。井の頭公園の北に「タイムズポート吉祥寺」がオープンしたのがきっかけです。ちょっと、昔好きだった人に会いに行くような気分です。

クルマで吉祥寺に向かうのは初めて。今までは電車で行ったり、バスや自転車で行くのが普通だったので、知った道でハンドルを握ると、自分が大人になったかなと思いました。タイムズポート吉祥寺にクルマを置いて、まずは井の頭公園を散歩します。

緑が本当に鮮やかです。桜の季節も見事ですが、この時期の新緑も負けてはいません。春の日差しが、池のほとりに枝を伸ばしたモミジの葉をやさしく照らし出します。その下ではカモがゆっくり漂い、向こうには真っ赤な弁財天さまが見えます。記憶よりも、お堂の色が鮮やかになっていました。
「恋人同士でお参りすると、弁財天さまが嫉妬をして、別れちゃうんだって」。学生時代は、そんな言葉を信じて絶対に弁財天さまへの赤い橋を渡らなかったので、今日が初めてのお参りになりました。だけど、何をお願いしてよいのか分からなくなりました。

弁財天さまをぐるりと回ってほとりに出ると、お茶屋さんがあり、ボート乗り場が見えてきます。向こうを見ると、今日も恋人たちが、ボートで語り合っているようです。私も乗ったことがあります。だけど、あまりに彼がひ弱で、ほとんど私が漕いでしまい、語り合ったのは最初の5分ほどでした。

そんなことを思い出しながら、黄色い春の光に縁取られた葉を見上げ、ゆっくりと井の頭池をぐるっと回りました。このベンチは「あの人と座ったなぁ」なんてことが、フラッシュバックします。いったん、公園を離れることにします。

野外ステージ脇の階段を上り、吉祥寺駅の方へ向かいます。この道「七井橋通り」は井の頭公園の参道ともいえる通りで(今日は逆方向に歩いていますが)、名物焼き鳥店の「いせや」がまだお昼なのに、もうもうと煙を上げています。店内を覗くと、おじ様方が良い感じになっています。とはいっても、私も数年前には女友達と一緒に常連化していたのですが(もちろん夜です)。

その先は、かなり個性的なお店が軒を並べています。アメリカ帰りのおもちゃ屋さん?、バリ雑貨、黒いレザーばかりの洋服屋さん、昔のバイクや自転車をおいた一風変わった古道具屋さん、今風のインテリアショップ。記憶と照らし合わせると、お店も入れ替わったようです。でも、お気に入りだった喫茶店(カフェではありません)は昔のまま。少しホッとしましました。ところが、そのちょっと先のバス通り沿いにあったレコード屋さんと楽器屋さんはもうありませんでした。

JR中央線下の駅ビル「ロンロン」を抜けると、吉祥寺が誇るショッピングエリアが広がっています。吉祥寺大通り、サンロード公園通りが南北に走り、そこに囲まれたエリアに大型商業施設と、小さなお店がひしめきあうように軒を並べています。ここに来て買えないものはない、食べられないものはないのではと思います。老若男女を問わず、本当にたくさんの人が吉祥寺を楽しんでいます。商店街は昔とあまり変わりないように思えましたが、通りによっては以前とはガラリと変わって、オシャレなカフェや雑貨屋さんが並び、賑わっています。あれもこれも欲しくなってしまい、仕事で来ていることを忘れそうです。その中で、カフェで見つけた紅茶を読者プレゼントとして買ってきました。

サンロード公園通り
おしゃれなカフェ

お店巡りをして、そのカフェで一休みしたら再び井の頭公園方面へ。池のある井の頭公園とは道を一本挟んだ、動物園がある井の頭自然文化園を訪ねます。小さな遊園地も併設した園内は親子連れでいっぱい。入ってすぐのところには、モルモットを抱っこできるコーナーがあり、子供たちの歓声が聞こえます。春にもかかわらず、暑さにうだって昼寝中のアライグマとイノシシはちょっとだらしない感じ。対馬生まれのツシマヤマネコは、猫好きの私の心をくすぐってきます。

だけど私が一番会いたかったのは、ゾウのはな子。彼女は、私の母と同じ63歳のおばあちゃんゾウ。久しぶりに会った彼女は、変りないように思いました。やさしい眼差し、ゆったりとした足取り、少し小さな耳。昔のままです。よく見ると前足の皮膚の色が薄くなっていたりするのは、年のせいかも。でも、動物園で一番の人気者であることに変わりはありません。みんなの視線を集めています。何か他の動物にはない、他のゾウにはない、他の人にはないオーラを感じます。それは、彼女の経験が醸し出しているのでしょう。

はな子は、まだ赤ちゃんともいえる時にタイから日本へやってきました。「かわいそうなぞう」の上野動物園の花子の名を継ぎ、移動動物園で各地を巡った後、井の頭自然文化園で暮らすことになりました。不幸な事故が重なったこともあり、一時は孤独になり、やせ細ったものの、飼育員の方の努力により健康を回復し、元気を取り戻して今に至ります。

人の世界に連れてこられたはな子は、自分の感情を誰にも上手に伝えられぬまま、嬉しいことがあってもつらいことがあっても、心の中で咀嚼(そしゃく)し続けていたのでしょう。だけど、そんな経験の連続が、他のゾウにはない、人にもない大きなものを育んでいるように思えます。

あの優しさにあふれた瞳は、訪れる人の思いを包み込んでいます。子供も大人もすべての人を、やさしい眼差しで抱っこしています。それぞれの心と繋がっています。そんな大きな存在を、私は知りません。

はな子と会うと、いつだって私は元気づけられます。茶色い柵に両肘をついて見つめていたら気づきました。私にとって大きなものも、もしかしたら、はな子にくらべたら、本当に小さなこと。そんなことに、くよくよできない。はな子のようにありたい。

やっぱりいつまでも、元気でいてもらいたと思います。また来たときには、あの大きな瞳で見守ってもらいたい。はな子、私はあなたの足元にも及びません。だから、あなたのことが好きなんです。

一日散歩して、吉祥寺で変わったもの、変らないもの色々ありました。私もそれは同じこと。今度はいつ来るのだろう。やっぱり私はこの街が好きです。でも、住むことはないと思います。住んでしまったら、今までと違う関係になってしまいそうで、ちょっと嫌。それが私と吉祥寺の関係かも。

オススメのタイムズ

タイムズポート吉祥寺


※この記事は2009年5月12日現在の情報です

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